帯に書かれた「モーツアルトからピンク・レディーまで名曲の陰に数学あり」というコピーが何とも興味を惹かれました。アナログとデジタル、音楽と数学、色々な視点を組み合わせながら音律と音階についての解説が展開されます。
音楽が詳しい人から「全音、半音」と言われてもよく分からなかった、という経験がある人(私です)が、数学の観点から「なぜドレミファソラシドの8段階12音なのか」を知ることができる書籍です。




この本のおもしろかったところ
ドレミ…を視る、ドレミ…に触れる
「1.1 音楽はデジタルだ」、本書はこのような章から始まります。
個人的に、音楽の授業で楽譜や音符を習うにつれ、「果たしてそのルールでどんな音楽も表現できるのだろうか?」と漠然と疑問を持ってはいました。この書籍を読んで、答えは「NO」だと分かりました。段階が無限にある響き(アナログ)の中から、あるルールで区切ったもの(ディジット化、デジタル化)が音階であり、だからこそ色々な区切り方(音律)があることが分かります。
その切り取り方について、古今東西の歴史的な経緯と数学的な経緯を交えて説明をしていきます。
ドレミ…はピタゴラスから始まった
かのピタゴラスが音階を作ったとは知りませんでした。第二章では、一弦琴を使った実験からピタゴラスが音の区切りを考案したことについて紹介されています。私はこれまで、ギターやバイオリンなどの弦楽器がなぜあんなに(押さえる位置がまちまちで)複雑なのかと思っていました。しかしこの章を読んで一弦琴の実験を知った時、『弦楽器は理論上は一本の弦で良い』ということが理解できました。ただし一弦だと、押さえる位置が離れすぎて演奏するには現実的ではない問題などから、響きの異なる複数の弦を持つことになったんだと納得できました。
音律の推移
ピタゴラスの理論だけでは、アナログ(無限段階)を完全に美しい理論で区切ることができませんでした。かといって決定的な唯一の答えがある訳でもなく、人類は古今東西色々な工夫をして音を区切ったことが分かります。主に西洋クラシックの歴史とともにそれらを俯瞰します。
音楽の心理と物理
それにしても、提唱者の数だけ音階の区切り方(デジタル化)が乱立しては却ってカオスです。音階の区切りは、どのようにして受け入れられていったのでしょう。ここでは重音を聞いた時の「協和度」の心理学的な実験データをもとに、「心地良さから受け入れられたのだ」という視点から考察しています。
音律と音階の冒険
歴史的な経緯と科学的な裏付けの説明をするだけでなく、最終章では「音律と音階の冒険」として、16音平均律、17音平均律、純正律のように響く平均律などの試みの紹介もしている。
まとめ
このような視点で音階に触れることができる点がおもしろく、おすすめできる書籍でした。
- 自然界にある音はアナログ(無限階層)であって、それを区切ったもの(ディジット化、デジタル化)したものが音階である
- ピタゴラスから始まった音階の区切りの歴史を俯瞰する
- 数学を利用して音の響きを理解する(対数の予備知識があると良い)




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